〜今出来る最大限〜

きっかけは昨年から取り組ませて頂いているCimabue gracefulさんとコラボレーションを展開していく中で、お取引先様の新店舗や店舗改装の案件がいくつかあり、その目玉として「現時点で出来る最大限のモノを創りたい。」と考えたことからです。
スタイリッシュな鞄や革小物をつくることで実績のあるCimabueさんとは真逆に近いアプローチの弊社ですが、より価値のあるより良いモノを創りたいという情熱は同じ。
そこからCimabueさんを代表する鞄であるダレスバッグを、弊社の代表素材の一つである日本の伝統技術「阿波松煙墨染め」のクロコで表現しようという流れになりました。
マニアックなモノづくりの弊社が、正統派のダレスバッグを創るという新たなチャレンジでもありました。
もちろん独自なモノづくりながらも品質は重視してやって来たので、創ることに関しては信頼する方々が控えており何ら心配はしていませんでした。
ただ限られた時間の中で誰がこの難題を手がけるかという中で、今回はKawai leatherさんが引き受けてくださいました。
長年に渡り様々な革製品を手掛け、誰も真似出来ない驚くほど高度な技術を身につけられている凄腕の方にタイミング良くお願いすることが出来ましたが、さらに大変なのは材料の手配。
長くお世話になっている革屋さんのご協力のもと、表には品質の良いクロコを5枚ほど阿波徳島にて松煙墨で染めて、内側は某メゾンブランドが使用している特別な山羊革をフランスから10枚仕入れたりと、かなりの材料費になってしまいました。
創る途中で材料が足りないと困るので、致し方ありませんが。
また、ダレスバッグの金具は口枠と錠前、ファスナーなどわずかですが、それでも手カンと錠前のメッキは本金と云われる本物の金も混ぜたもので、革に負けない存在感を目指しました。
金具や材料が揃う前に作成したモックサンプルを見た時には、「凄いモノが出来る!」と確信に。
閉塞感のある世の中に振り切ったモノを出したい衝動に駆られ、様々な方の力を借りて形になりました。

実物を見て感じて頂きたいので多くを語りたくはないと思っておりましたが、お客様の勧めもあり説明をさせていただきます。
先ず圧倒的な阿波松煙墨染めクロコ革の存在感にやられます。
ダレスバッグの特徴である紡錘型の美しいラインは手縫いならではで、微妙な力加減で革をいせ込んで形を出しています。

このバッグの為に特別に手配したサイズのクロコ革を正面も背面もセンター取り。

本体の正面と背面は革を切り替えているのですが、つなげる際にクロコの斑の柄を合わせるという離れ技。
補強も兼ねてクロコ革の下にも革を重ねて段差をつけています。
持ち手も現代は便利な芯材があるのですが、「持ったときの感触が違うんだ」とKawai氏の意見の元、革を何枚も重ねた後に削りながらハンドルの形にし、最後はクロコ革で巻くという遠回りするアプローチに。
その巻いた斑の細かいクロコもどうやったら薄く漉けるのか?
鱗のない牛革と違い、薄く漉きすぎると通常は切れてしまう爬虫類革のリスキーなところを避けて通らず見事にやり切っています。

見えない底でもまさかのセンター取り、サイドの3つマチもきれいに開閉されるよう気を遣いながらも堅牢な尾の部分を用いた仕様です。

外側だけでももうお腹いっぱいかと思いますが、内側も抜かりはありません。
美しくも堅牢かつ軽量な山羊革をふんだんに使用した見事な内装。

ここでもKawai氏の凄さがわかる逸話が。
通常は専門の革漉き屋さんに厚みを指定して漉いてもらうのですが、どうしても+-1mmは誤差が生じてしまいます。
それを嫌う氏は自身の手持ちのコバ漉き器で微妙な革の厚みを調整するという、気の遠くなるかなり面倒な作業を独りでこなしています。

ため息がでるような内装の荘厳さ。
ここまで来ると商品というよりも作品ですね。
いかがでしょうか?
やはり文章や画像では伝えきれません。
たかがバッグ、されどバッグ。
ひとつの宇宙が創造されています。
最後にこの機会を与えてくださいましたCimabueさんに改めて感謝いたします。
作成頂いたKawai氏、クロコ革や材料等含め関係者の皆様本当に有難うございました。
*拙い文章に長々とお付き合い頂き有難うございました。